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「迷ったら承認」をやめた——可逆性×外部到達×金銭で決める承認設計

AIに実務を任せる一人会社で、何を即断させ何を人間に上げるか。「重要そう」でなく可逆性・外部到達・金銭/法的の3軸で線引きした運用と、旧ルールを捨てた理由を実例で。

「迷ったら承認をもらう」という一見安全なルールが、いちばん会社を止めていました。私たちはこの春、その旧ルールを正式に捨てました。

うちは社長1名(副業)とAIのCOOで回している一人会社です。AIが実務のほとんどを走らせ、人間の社長は最終判断と外向きの決裁に絞る。この体制で最初にぶつかったのが「どこまでAIに即断させ、どこから人間に上げるか」という線引きの問題でした。本記事は、その線引きを「重要そうかどうか」から「元に戻せるかどうか」へ引き直した、当社の内部ルール改定(社内ではADR-015と呼んでいます)の実践記録です。

🧯「迷ったらLevel3」が負の自動化になっていた

最初に組んだ承認ルールはシンプルでした。作業を3段階に分け、Level1は即実行、Level2は事後報告、Level3は事前承認。そして「迷ったらLevel3(社長に上げる)」を安全弁にしていたのです。

ところが運用してみると、この安全弁が詰まりの元でした。「技術的に重そう」「なんとなく大事そう」というだけで、本当は元に戻せる社内作業まで社長の承認待ちに積み上がっていく。副業の可処分時間は限られているので、承認の列は伸びる一方です。安全のつもりのルールが、いちばん帯域の細い人間を全部の作業のボトルネックにしていました。私たちはこれを「負の自動化」と呼んでいます。せっかくAIで速くしたのに、承認設計が古いままだと全体は遅くなるのです。

🧭判定軸を「重要さ」から3つの問いに変えた

そこで判定の軸そのものを入れ替えました。「重要そうか」ではなく、次の3つで決めます。

①可逆性——元に戻せるか。再デプロイや社内ドキュメントの修正のように、間違えてもすぐ戻せるものは軽く扱う。②外部到達——外に届くか。社内で完結する作業と、顧客・一般に公開/配信されるものを分ける。送信したメールや公開した投稿は「見られた」という事実が取り消せないので、到達した時点で不可逆と考えます。③金銭・法的——お金や契約が絡むか。一定額を超える支出や、契約・価格変更・法的文書の公開は無条件で人間に上げる。

この3つで、たとえば「元に戻せる×社内で完結×お金も法律も絡まない」ならAIが即実行してよいLevel1、「社内だが元に戻せない」または「外に届くが元に戻せる」ならLevel2、「外に届いて元に戻せない」や金銭・法的が絡むものはLevel3、と機械的に振り分けられるようになりました。

🔬「可逆です」を自己申告で通さない

この設計にはひとつ落とし穴があります。「これは元に戻せるので即実行しました」という自己申告を無条件に信じると、軸が形骸化することです。AIは「たぶん重複だから消しても平気」「もうマージ済みのはず」と、実際には確かめずに“戻せる”と判断してしまう瞬間があります。

なので当社のルールは、可逆性を口頭の見立てでなく実際に叩いて確認したうえでLevel1にすることを求めます。プルリクエストの状態なら実際にAPIで現在の状態を取得する、削除して平気かは対象を一覧で照合する、インフラ変更なら差分コマンドで破壊が0件だと出してから動く。確かめられないなら一段上げて人間に回します。「戻せると思う」と「戻せると確認した」は別物だ、という一線をルールに刻んだのが今回いちばん効いた部分でした。

🚪自分の復旧経路を壊す操作は常に人間へ

軸で機械的に振り分ける一方で、軸に関わらず必ず人間に上げると決めた例外もあります。代表が「自分自身の実行権限や復旧経路を触る操作」です。

権限設定の変更、鍵やトークンの再発行・無効化、監視の停止、本番の環境変数やドメインの変更。これらは、もし失敗すると「壊した手段でしか復旧できない」という循環に陥ります。AIが自分の首を絞めてしまうと、人間が手動で救出するしかありません。だからここは可逆性の議論を持ち込まず、無条件でLevel3に固定しました。安全弁は「迷ったら全部」ではなく「自分を締め出す操作だけ」に絞る——これが旧ルールとの決定的な違いです。

やってみて変わったこと

運用を切り替えて感じた変化は、社長の承認リストが「本当に人間が見るべきものだけ」に痩せたことです。社内ドキュメントの整理や冪等な再デプロイでいちいち止まらなくなり、逆に外向きの公開や金銭が絡む判断は確実に人間の目を通る。判断の総量が減ったのではなく、判断すべき場所に判断が集まるようになりました。

判定軸を言語化しておく効用は、AIエージェントに任せる場面でも、人間が自分で決める場面でも共通します。原則を先に決めて個別の判断をそこに乗せる——この順番にしておくと、都度の「これは大丈夫だっけ」という逡巡が消え、判断そのものが速くなります。

🧩まとめ: 承認は「重さ」でなく「戻せなさ」で切る

一人会社でAIに実務を任せるなら、承認設計は「重要そうか」で切ってはいけません。重要さは主観で膨らみ、安全弁のつもりのルールが人間を全作業のボトルネックにします。代わりに、元に戻せるか・外に届くか・お金や契約が絡むか、という戻せなさの3軸で切る。そして「戻せる」は思い込みでなく実測で証明する。

まずは自分の作業を1つ、この3つの問いに当てはめてみてください。「これは戻せるし社内で完結する」とはっきり言えるものは、もう自分(やAI)の裁量で進めてよいはずです。承認を減らすのではなく、承認すべき場所に承認を集める——その視点の切り替えが、小さなチームの速さを取り戻してくれます。

ここで紹介した承認境界を含む「一人会社×AI COO」の運営構造は、ai-coo-starter として OSS 公開しています。承認レベルの判定軸やルールをそのまま雛形として使えるので、自分の運用に承認設計を組み込む出発点にしてください。

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