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「新しい仕事は新しいセッションで」——AIの文脈を汚さない運用

AIに長く働いてもらうほど文脈が濁る。タスクを切り替えるたびにセッションを分け、誤った方向は訂正でなく巻き戻す。一人会社のセッション衛生ルールとその理由を実運用から。

AIに長く働いてもらうほど、賢くなるどころか、だんだん話が噛み合わなくなっていく——これが一人会社でAIを実務に使ってみて、最初に体で覚えたことでした。

私たちは社長ひとりに、AIを実務担当(COO)として据えて会社を回しています。設計も調査も文章も任せますが、同じ会話をずっと続けていると、途中から的外れな提案が増えたり、さっき却下したはずの案が蒸し返されたりします。原因は能力ではなく、会話に積み上がった文脈が濁っていることでした。

そこで決めたのが「セッション衛生」という運用ルールです。今日も実際に守っている、そのいくつかを紹介します。

🧠長い会話ほど、文脈は濁る

AIは、それまでの会話の全部を毎回読み直しながら答えます。だから会話が長引くほど、関係ない調査ログや途中で捨てた案まで一緒に読み込むことになり、判断の足を引っ張ります。人間なら「さっきの話は忘れてください」で切り替えられますが、同じ会話の中では過去の発言がずっと残り続けます。

この性質は、AIコーディングの文脈でも「文脈の設計そのものがエンジニアリングの対象になる」と論じられています(Martin Fowler のEngineering Practices for LLM Application Developmentが近い問題意識を扱っています)。私たちの実感も、まさに「何を会話に残すか」の勝負でした。

🆕新しい仕事は、新しいセッションで

一番効いたルールは単純で、タスクが変わったら会話を新しく始める、それだけです。朝会をやったあとに別プロダクトの実装へ移るとき、実装のあとに独立したレビューへ移るとき——私たちは前の会話を閉じて、まっさらな状態から始めます。前の仕事の残り香を、次の仕事に持ち込まないためです。

逆に、同じ仕事の中なら会話は続けます。実装してテストして直してコミットする、エラーを調べて直す、同じファイルを続けて編集する——ここで会話を切ると、せっかく積んだ前提まで捨てることになります。境目は「賢さ」ではなく「今のタスクと地続きか」で引いています。

↩️誤った方向は、訂正でなく巻き戻す

AIが見当違いな方向に走り出したとき、つい「そうじゃなくて、こうしてほしい」と追加で指示したくなります。ところが、その訂正のやり取り自体が会話に残り、あとを引きます。誤った前提と、それを打ち消す指示が両方積み上がって、かえって混乱を招くのです。

なので私たちは、訂正を書き足すのではなく、間違いはじめた地点まで会話を巻き戻すようにしています。誤った文脈そのものを、無かったことにして始め直す。すでにコミットしてしまった内容の手直しなら、履歴を積むのではなく直前のコミットに上書きします。「消す」ほうが「打ち消す」より速くて、あとに残らないという実感です。

🧹それでも長くなるときは、要点を渡して圧縮する

一つの仕事がどうしても長引くこともあります。そのときは会話を丸ごと切るのではなく、要点だけを残して圧縮します。ただ「短くして」と頼むと大事な文脈まで落ちるので、私たちは「今のPRの文脈だけ残して」といったヒントを添えて圧縮するようにしています。何を捨てて何を守るかを、こちらから指定するわけです。

目安も決めています。やり取りが増えすぎたとき、会話がふくらんできたとき、あるいはタスクの区切りに差しかかったとき。数字で機械的に区切るというより、「そろそろ濁ってきたな」という手前で圧縮や切り替えを挟む、という運用にしています。

🧭まとめ: 会話は、こまめに使い捨てる

AIを実務に組み込むと、ボトルネックは「AIの賢さ」ではなく「渡している文脈の綺麗さ」に移ります。新しい仕事は新しいセッションで始める。誤った方向は訂正でなく巻き戻す。長引くときはヒント付きで圧縮する——どれも派手さはありませんが、これだけで会話の噛み合わなさがはっきり減りました。

一人会社では、この判断を全部ひとりで下します。だからこそ「会話をこまめに使い捨てる」という割り切りが効きます。もったいながらずに閉じて、次をまっさらから始める。それが、AIに長く付き合ってもらうための、いちばん地味で確実なコツだと思っています。

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