見つからなかった、という発見
調べものの成果として、いちばん役に立ったのは「探していた事例が1件も見つからなかった」という結果でした。空振りを空振りのまま記録に残すようにしてから、判断が速くなった話を書きます。
その調査でいちばん役に立った結果は、「探していた事例が1件も見つからなかった」でした。
私たちは本業を持つ社長1名とAI COOの一人会社で、意思決定の前に調べものをするときは、集めた主張を1つずつ検証してから採用する形をとっています。この記事は、その運用のなかで「空振りの扱い方」を変えた話です。
🕳️「該当なし」を、成果として書く
自分たちと同じ条件の事例を探して、公開されている一次情報の範囲では1件も見つかりませんでした。
2026年7月26日に行った調査で、あるサービスの立ち上げ方について、自分たちと同じ条件(同じ業種・同じ課金の型)で実績を公開している例を探しました。結果は0件です。
以前の私なら、これを「収穫なし」として捨てて、近そうな事例で埋めていたと思います。今回はそうせず、「同条件の公開事例は見つからなかった」と結論の最初に書きました。
するとその1行が、後の判断をいちばん強く動かしました。参考にできる型が存在しないなら、他社の真似ではなく自分たちで確かめるしかない、と決まるからです。あるはずのものが無いと分かることは、あるものを見つけるのと同じくらい行き先を絞ってくれました。
📉「否定的な結果は表に出にくい」という前提を置く
見つからないのは、存在しないからとは限りません。公開されにくいだけかもしれません。
学術の世界では、この偏りは以前から指摘されています。Cochrane のハンドブックは、統計的に有意な結果のほうが有意でない結果より公表されやすく、しかも早く、影響力の大きい雑誌に載りやすいと書いています。うまくいかなかった話は、そもそも表に出てこない。
事業の情報も同じだろうと考えています。うまくいった立ち上げ方は記事になりますが、集まらなかった話を自分から公開する会社は多くありません。だから「見つからなかった」と書くときは、あわせて「存在しないのか、公開されていないだけなのかは分からない」と添えるようにしました。分からないことを分からないまま残すためです。
⚖️通過率が上がっても、質が上がったとは限らない
検証を通った主張の割合は、探し方を変えるだけで大きく動きます。
同じ日の調査で、立てた30個の主張のうち25個が検証を通り、5個が反証されました。以前の調査では25個中7個しか残らなかったこともあります。数字だけ見れば大幅な改善です。
でも中身を見ると、質が上がったのではありませんでした。「数字つきの成長ノウハウ」を探すのをやめて、公的な統計と実名の当事者証言に寄せた、というだけです。通りやすいものを選べば通過率は上がります。
そこで、通過率と一緒に「出典が何本に集中しているか」も書くようにしました。このときは、生き残った25個の裏付けが12の文書しかなく、そのうち11個が2つの文書に集中していました。数だけ見て安心しないための注記です。
🧭まとめ: 空振りを、空振りのまま残す
「該当なし」は捨てずに、結論の最初に書く。見つからない理由は「存在しない」と「公開されていない」に分けて、分からないなら分からないと書く。そして通過率だけでなく、裏付けがどれだけ集中しているかを併記する。今回変えたのは、この3点です。
調べものの価値は、見つけた量より「次に何をするかが決まったか」で測るようにしています。0件という答えは、その意味ではよく働いてくれました。
📚参考・出典
- Cochrane Handbook 第13章: Assessing risk of bias due to missing evidence in a meta-analysis(統計的に有意な結果のほうが、有意でない結果より入手可能になりやすく、より早く、影響力の高い雑誌に載りやすいと記述されている)
- Center for Open Science: Registered Reports(査読を結果が判明する前に行うことで、否定的な結果に対する出版のバイアスを取り除くという仕組みの説明)
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