「やらないこと」を先に決める——教育・研修・SaaS外販を捨てた理由
リソースが社長1名の会社では、やることより「やらないこと」の線引きが効く。SaaS外販の凍結や研修・テンプレ販売を候補から外した判断と、その効果を実例で振り返る。
一人会社の戦略の本体は、実は「やること」のリストではありません。誘われても、儲かりそうに見えても、そこには手を出さないと決めた「やらないこと」のリストのほうです。
私たちは社長1名とAI COOだけで運営している合同会社です。人手が増えないぶん、選択肢が増えるほど一人あたりの集中は薄まります。だから会社の運営ガイドラインの冒頭近くに、あえて「やらない」領域を名指しで書き込みました。教育、法人研修、テンプレート販売。この3つは、やらないと決めたから今も手が空いています。この記事では、なぜそう決めたのかを実際の判断に沿って振り返ります。
✂️「やること」より「やらないこと」が効く理由
リソースが潤沢な会社なら、有望に見える事業を並行で試して、伸びたものを残す戦い方ができます。けれど動ける人が1名の会社では、新しい領域に一歩踏み込むたびに、既存の受託や自社プロダクトから時間が引き剥がされます。試すこと自体にコストがかかり、しかも撤退の判断も後回しになりがちです。
そこで私たちは順番を逆にしました。まず候補を全部並べて、そのうち「これはやらない」と先に線を引く。残ったものだけを本気でやる。やらないと決めた領域には、誘いが来ても検討時間すら使わないと決めておく。この一手間だけで、日々の判断がずいぶん軽くなりました。
🎓教育・法人研修・テンプレ販売を候補から外した
運営ガイドラインには「やらない」として、Education、法人研修、テンプレート販売を明記してあります。どれも一見すると相性が良さそうな領域です。AI活用のノウハウは溜まっていますし、研修に仕立てれば単価も取れそうに見えます。テンプレート販売は在庫を持たずに売れます。
それでも外したのは、いずれも「作って終わり」ではなく継続的な人の対応が前提になるからです。研修はカリキュラム更新と当日の登壇が要りますし、教育事業は問い合わせ対応が積み上がります。テンプレ販売もサポート窓口が発生します。社長1名の会社にとって、この「終わらない人的対応」は自社プロダクト開発を確実に圧迫します。魅力の大小ではなく、一人会社の構造に合うかどうかで切りました。
🧊SaaS外販の凍結——StackForgeの判断
一番痛みを伴ったのが、開発ツール群のSaaS外販を凍結した判断です。社内向けに作っていたプロダクト管理まわりの仕組みを、外部にSaaSとして売る構想がありました。技術的には作れる。需要もありそうに思えた。それでも外販は凍結し、方針をOSS化と社内ツール化へ切り替えました。この意思決定は記録として残し、後から理由を追えるようにしています。
理由はシンプルで、SaaS外販は「売って終わり」ではないからです。課金基盤、SLA、問い合わせ対応、障害時の一次受け。顧客がつくほど運用の重みが増し、そのすべてを1名で背負うことになります。開発は好きでも、24時間動く商用サービスの運用当番を一人で持ち続けるのは現実的ではありませんでした。だからコードは公開して価値を残しつつ、外販という運用責任だけを手放しました。
🎯捨てたから空いた手を、どこに置いたか
やらないことを決めた効果は、残った領域への集中という形で現れました。今の私たちの手は、共同開発しているプロダクトの運用と、数サイト分のWordPress受託、そして地域コミュニティ向けのアプリに向いています。どれも「やること」として選び直したものです。
仮に研修とテンプレ販売とSaaS外販を全部走らせていたら、この受託や自社アプリのどれかは確実に手薄になっていたはずです。捨てるという判断は、他のどこかに手を置くための判断でもあります。何もかも追いかけないと決めることが、追いかけると決めたものを守ってくれます。
🔁「やらない」は一度決めて終わりではない
大事なのは、この線引きが永久の禁止ではないという点です。私たちは「やらない」を、いまの体制と季節に対する判断として扱っています。人手や仕組みが変われば、凍結を解く日が来るかもしれません。だからこそ、なぜ外したのかを記録として残しておくと、後から見直すときに感情ではなく理由で再判断できます。
一人会社を続けていると、良さそうな話は次々にやってきます。そのたびに「やる」を増やすのではなく、まず「やらないリスト」に照らす。そこに載っていれば検討時間すら使わない。この単純なルールが、限られた集中を守る一番効いた仕組みでした。
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